2021年2月2日 更新


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日本手話学会第24回大会

日程:1998年8月1・2日

場所:国立身体障害者リハビリテーションセンター

 

【研究発表】

手話のリズム

市川熹・田中裕史・堀内靖雄(千葉大学大学院)

手話のリズムを解明する予備検討として,ろう者と健聴者(手話学習者)の手の甲に磁気センサを付け,その空間的位置を計算器に取込み周波数分析等を行った.聾者の手話には部分的に5Hz(200ms)程度の周期的動作が確認されたが,健聴者では見られなかった.これは,言語のリズムには約330ミリ秒より短くパターンとして直接的に認識されるものと,約420ミリ秒より長く論理的に判断されるものの2種があるとの,神戸外国語大学の河野教授による最近の報告に照らすと,ろう者の手話はパターンとして理解しやすく,健聴者のはそれに欠け,一つ一つ論理判断を求められ,理解がスムースに行かないことが多いのではないか,ということを示唆している.

 

3次元位置測定装置による照応表現の測定

徳田正晃(北陸先端科学技術大学院大学)・市川熹(千葉大学)

磁気センサーによる3次元測定装置を使うと手や腕の位置が3次元空間上の点として観測し,処理することができる.この装置を使い,健聴者と聾者の照応表現を測定した.その結果,健聴者の手話表現に,聾者とは違うパターンが見られた.また,この測定を通して明らかになった測定装置とデータの処理方法の問題点と,その改善方法について考察する.

 

アバター型手話通信に適した表情パラメータの検討

黒田知宏・佐藤宏介・千原國宏(奈良先端科学技術大学院大学)

現在各家庭まで敷設されている電気通信ネットワークは音声の伝送を主目的としているため,これらから受ける恩恵には健聴者と聴覚障害者(以下,ろう者)との間で大きな差が生じている.そこで本研究では,各種動作計測技術とVR技術を利用し,遠隔地間での自然な手話コミュニケーションを支援する,アバター型手話伝送通信装置の開発を行っている.これまでの検討から,アバター型通信は画像通信に比べて伝送速度や解像度の面で有利であるが,表情情報が欠落しているという問題があること,画像情報を用いてCGアバター上に表情提示を行うと違和感が生じる,伝送符号量が増加する,CG描出レートが低下するなどの問題があることが明らかになった.

そこで本発表では,表情をCG提示するためにどの顔部位の動き情報を伝送せねばならないかを検討する.

 

聾幼児における手話の類辞SASSの獲得に関する一考察:空間概念発達との関連から

中野聡子・吉野公喜・金澤貴之(筑波大学)

 

手話習得における情意フィルター

木村晴美(国立身体障害者リハビリテーションセンター)・小薗江聡(Dプロ)

 

戦前から現在に至る沖縄のろう教育史

千々岩恵子(Dプロ)

 

カメルーン共和国における二つの外来手話教育

亀井伸孝(京都大学大学院)

 

日本手話のハムノーシスに対する考察・提案

宮下昭宣・棚田茂(Dプロ)

現在,世界中でいくつかの手話表記法が提案されており,実際に辞書,研究などに用いられているものもある.日本国内でもいくつかの表記法が提案されているが,我々はその中で特にハムノーシスを取り上げ,日本手話におけるハムノーシスの表記の改良を加えた.ハムノーシスで表記できない手話,口唇動作の表記に関する提案をする.これによって,手話・日本語辞典の作成をめざす.プロトタイプを紹介するが,実際,手話ポエムなど,日本語・手話辞典では到底実現不可能な活用を可能にしている.

 

聾者間の対話の日本手話で見られる音韻表現の変形

福島和子・関根智美・赤堀仁美・泉宣秀・福田友美子・木村晴美・市田泰弘・春日井中・鈴木和子・中嶋直子・近藤和歌子・乗松秀暢

聾者の日常的な対話で行われている単語表現を,ゆっくりと丁寧にいちごずつ発話した単語表現(基本的表現)と比較した.それに基づいて,聾者間の対話で使用されている日本手話の単語の手指表現が基本的表現からどのように変化するかについて,体系化を試みた.その結果,次のことがわかった.1. 手型では,それぞれの手型には必ず表現しなくてはならない手指の形の必要条件があり,それさえ満たしていれば,かなり広い範囲へ変形していた.2. 位置については,①接触を伴わない単語では,前後の単語(特に前の単語)に影響されて,動作位置が移動していた.②接触を伴う単語は,基本形では動作位置はかなり狭い範囲に限定されるが,対話では接触を伴わずに発話され,大きな位置の移動があった.3. 両手で表現される単語では,非利き手の動作が省略されていた.以上の変形すべて,手・指・腕などの調音器官に負担がかからないよう,前後の単語との組みあわせから,どのような表現がなされるかが,決定されていた.

 

指文字の有契成消失について

吹野昌幸・宮本一郎(Dプロ)

指文字表現は,使用頻度が高いほど,MOVE/HOLDが消失したり,手首の方向の無標化されたり,有契性消失の過程を経て,円滑化や縮約化(神田1994)の現象が起きていることが知られ,日本手話ネイティブ間で交わされている会話場面で見られる現象のひとつである.有契性消失には,要素の消失や無標化,そして方向の同化の様々な現象があり,コミュニケーションの円滑化・迅速化を果たしている.

今回は有契性消失の様々な現象の過程を経て,方向同化とニュートラル化に至ることについて分析を行い,考察を述べる.

 

日本手話の複合語形成における動きの弱化と消失

乗松秀暢・市田泰弘・泉宣秀・赤堀仁美・福島和子・関根智美・福田友美子・木村晴美・鈴木和子・近藤和歌子・春日井中・中嶋直子

 

日本手話品詞論試論:セイリッシュ諸語との対象を通して

箕浦信勝(東京外国語大学)

 

日本手話の名詞句内の語順について

市田泰弘(国立身体障害者リハビリテーションセンター)

 

日本手話のアスペクト表現

佐々木大介(テキサス大学オースチン校大学院)(予稿なし)

 

日本手話実詞の順向・反転について

箕浦信勝(東京外国語大学)

 

JSLに於ける頭の斜め:談話的な機能から意味的な根拠へ

茂流岸マイク(国際大学・新潟大学・長岡技術科学大学)

日本手話では,色んな文法上の機能が非手指動作で実現されることがよく分かってきた.この非手指動作の中には頭の斜め(左右傾き)も1つである.例えば,木村・市田(1995),市田(1991等)はwh疑問文を伴なう非手指動作要素の組み合わせは頭の斜めも含んでいることを述べた.しかし,頭の斜めが伴わないwh疑問文もあるし,手話談話では頭の斜めは疑問文以外の役割も果たしている.本研究の目的は,ビデオに録画された日本手話談話のコーパスに出る頭の斜めのすべての例を分析して,頭の斜めはどんな機能があるか,そうしてその機能は一般的な意味に基づいているかどうかとを論じる.

 

談話の中の登場人物の区別について:あるろう者の伊勢湾台風体験談より

シンシア・パチキ(中京大学)・黒坂美智代(名古屋市)

This study takes a look at the strategic features for distinguishing characters in signed narration. What has been traditionally called "role-playing" and what Winston(1992,1992) calls action performatives(what we call gendou noinyo), is analyzed. Eye gaze, body orientation, facial exression, and signing style are identified as the features of action performatives. They are found to be utillzed in isolation or in varlous combinations to make the switch of characters apparent. Findings resulting from this study include the fact that body orientation is only directionally consistent, and thus significant, for the main character, and irrelevant, or insignificant, in the case of the remaining characters whose positions are understood only in relation to the features of the action performatives of the main character of the story. It also appears that the scene of the story is set up relative to the main character as the story unfolds.

 

日本手話におけるメタファー

小川由布子(ギャローデット大学大学院)

認知言語学の領域の一つである,レイコフとジョンソン(1980)のメタファーとメトニミーの理論の日本手話における考察.数多くの日本手話における概念メタファーのうち,本論文はオリエンテーション・メタファー(方向性のメタファー)の中から「上−下」の空間のメタファーを紹介する.

 

詩的手話の音韻分析

棚田茂・宮本一郎(Dプロ)

手話ポエムに対する誤解が最近多く目立つ.ろう者にとっての音楽,詩とは何かを追求し,一般的に考えられている手話ポエムに対し,ろう者の手話ポエムの真相を解き明かし,日本におけるろう者による手話ポエムを紹介し,ASL詩の先駆者であるエラ女史,パリー博士の手話ポエムの音韻分析などを元に,日本手話における詩を音韻的に分析する.その結果をハムノーシスで表記することによりさらに明確な日本手話における手話ポエムの音韻的特徴,韻数律について述べる.

 

アメリカ手話語彙における分布の偏り

原大介(シカゴ大学)

アメリカ手話語彙の分布は均等ではなく,ある種の語は理論的に存在が予測されるものにもかかわらず実際に存在しない.動き・手型・位置のそれぞれにこのような偏りが存在することを指摘し,これらの「偏り」が音節形成・語形成の仕組みを解明する重要な手がかりになることを示す.

 

日本手話における口形表現の役割り

関根智美・赤堀仁美・福島和子・福田友美子・木村晴美・市田泰弘・鈴木和子・近藤和歌子・春日井中

日本手話の口形変化による言語表現を研究するために,まず,その表現例を3人の日本手話のネイティブサイナーを中心にして約500種を採集した.採集したサンプルについて,3人の聾者が持っている日本手話の知識を基にした直感的な分類にしたがって整理・記述した.口形表現では①1回(普通の長さ):ア ②1回(長い):アー③繰り返し:アアア④強調(各口形の特徴の強調):アッの4種類,手指動作による単語表現では①1回(普通の速さの動作) ②l回(ゆっくりの速さの動作) ③繰り返し ④なしの4種類の区別があり,この2つが組み合わされて意味的に違う表現がなされていた.また,口形の形の種類は20種類に区分したが,今後,客観的な測定をして,その詳細を記述する予定でいる.

 

地名表現/長崎/について考察:コードスイッチング

吹野昌幸・宮本一郎(Dプロ)

戦後のろう者の全国的な組織運動が高まった背景事情により,昭和44年(1969年)に(財)全日本ろうあ連盟から『わたしたちの手話』(全日連1969)が出版された.その出版以来,四半世紀以上経つ.現在,全国希望の会議・集会で,標準手話として用いられたり,ろう者の一般的生活では普段の手話会話に取り入れられたり,様々な展開を見せていることが事実である.昨年の,/大分/地名表現の観察(宮本,1997)に続き,今回は,長崎市においての(以後,「地元」と称す)地名表現/長崎/についての観察調査を行い,また,コードスイッチング現象(木村/市田1995)の発生有無の観察調査を合わせて行ったので,報告する.

 

聾者間の対話の日本手話での使用単語

赤堀仁美・福島和子・関根智美・泉宣秀・福田友美子・木村晴美・市田泰弘・鈴木和子・春日井中・中嶋直子・近藤和歌子・乗松秀暢

2人の聾者の30分にわたる日本手話での対話をレーザディスクに録画した.その録画された記録を用いて,対話を単語レベルで区切り,使用されていた単語すべてにラベル付けした.単語を区切る場合2つの単語に分けるかまたは独立させた方がいいか迷うことも多かったが,聾者が持っている日本手話の知識を基にした直感的な単語意識を,最終的な判断基準にした.また,ラベルには外国の研究で行われているように,便宜的に日本語表現を用いた.その結果,2人のろう者での高頻度使用語彙は類似していて,どのような単語が高頻度に使用されているか資料が得られた.また,高頻度に使用される日本手話の基本単語は,日本手話独特の使用方法が多い印象であった.その中のいくつかを紹介した.