令和7年(2025年)5月29日 更新


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第50回日本手話学会大会

日程:令和6年(2025年)12月7日(土)

場所:東京大学先端科学技術研究センター(東京都目黒区)

 

【基調講演】

「手話言語の法整備と今後の調査研究体制について」

久松 三二 氏(一般裁断法人全日本ろうあ連盟・事務局長)〈日本手話〉

当日資料配布

 

【研究発表】

 #1「北海道における手話語彙の地域変種とその見かけ上の変化」

  相良 啓子(日本学術振興会/国立国語研究所)〈日本手話〉

  日本学術振興会/国立国語研究所 本発表では、北海道(函館・旭川・札幌)で使用されている手話語彙に着目し、音韻、形態、語彙レベルでの地域変種にはどのような語があるのか、報告する。また、それらの語には、どのような見かけ上の変化が生じているのか、異なる年齢層で使用されている手話データに基づいて分析する。手話の歴史的背景も踏まえて、「北海道の手話」と一括りできない地域の違いによる手話語彙の変異があることを示す。

 

#2「手話記号論における左右学の架構:手指媒体記号にみる左右軸的時空認識と鏡映的事象」

  末森 明夫(日本社会事業大学)〈手指日本語もどき〉

  本稿は、手指媒体記号を介する記号過程にみる左右系時空認識を焦点化し、認知言語学、基盤化認知論(=身体化認知論)、鏡映論、ないし圏論の援用を通して、左右系時空認識の機序を考察することにより、手話記号論における左右学の架構に資した。具体的には、(1)左右系時空認識「《右(=過去)》→《左(=現在)》」の基盤化認知に利き手の感覚運動情報が関与している機序の図式化、(2)空間認識と時間認識の譬喩関係(=「時間の『移動』」)にみる指差の指標ないし類像への記号分類、(3)左利き話者と右利き話者の間にみる「時間の『移動』」の記号過程の図式化、をはかった。

 

#3「間当事者性の研究序説【私はろう者ではありません】:手話(あろう)ろうあ発話及び出入力と学術通訳問題の典型的な一例」

  唖 加藤(岡本)洋(関東聾唖史研究会)〈日本手話〉

  東京校は曾てモウア教育の模範校と制定されていた(文部省 1890)。築地時代ゟ引き続き一貫して授業の媒介言語は真正手話であったが明治中葉より文部省では口話法教育の導入を目指して現場小西信八等との激烈な鬩ぎ合いが存在した。東京校は他校とは違い適性教育に流されず全校で手話法教育の徹底化並びに通事等の情報保障を保持し堅牢な牙城だったが小西師が退官する数年前の大正中葉には最早模範校の役割は薄まっていた。口話横暴が増殖し手話進化も手話で教育受ける権利も手話生活の場も阻害された。途轍もない損失だが構造的な宿命で不可避なのか…という酷な命題に取り組む思想や哲学も求められる。前時代の手話は自立・自律していたが「口話時代の手話」はそうでなくなった。「手話」が口話に隷属している実態を如何に矯正・更生させるべきか。口話の手話への浸潤・汚染は余りにも深刻で様々な害毒を多方面に発生させ、ろうあ界を引き裂いた。

 

#4「ろう者学ワークショップの効果評価:心理社会福祉専門職を対象として」

  高山 亨太(Gallaudet Univ.)〈日本手話〉

  本研究は、ろう・難聴者に対する臨床実践において、文化言語モデルに基づいたアプローチの重要性を明らかにした。特に、専門家が無意識に持つ「ろうに対する偏見」や「聴者特権」の自覚が不可欠であり、オーディズムやろう文化論の理解が臨床応用に必要であることが示された。また、研修機会の継続や手話を公用語とした研修環境の整備が重要であり、ろう者学の資料へのアクセス向上が今後の課題として指摘された。

 

#5「Web会議システムを用いた日本手話でのオンライン会話で生じる困難さ:
  日本手話を母語とするろう者へのインタビュー調査から」

  能美 由希子・左藤 敦子(筑波大学)〈音声日本語〉

  コロナ禍を経て、ろう者が Web 会議システムを用いて手話会話をする機会が増えている。日本手話を母語とするろう者を対象にオンライン会話で生じるメリットと困難さへの対応方法についてインタビュー調査を行い、日本手話の会話の特徴を踏まえた分析を行った。結果として、①話し手と聞き手が双方に ICT 機器を活用するための知識が必要であること、②聞き手側の分かりづらさは話し手側への働きかけによって対応可能であること、③話し手側はオンライン特有の視線の使い方による話しにくさが生じること、④ろう者同士かつオンライン会話に慣れた同士であれば、日本手話の会話ルールの中で自然と行われる確認や調整によりオンライン会話が成立すること、が明らかになった。